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いきものがかり水野×朝井リョウ提案 文芸界にも“あの番組”を!

いきものがかり水野×朝井リョウ提案 文芸界にも“あの番組”を!

J-WAVEでオンエア中の「SONAR MUSIC」(ナビゲーター:藤田琢己)。8月10日(木)のオンエアでは、いきものがかりの水野良樹と小説家の朝井リョウさんの対談の模様をお届けしました。こちらでは、対談の完全版をお届けします。

もともと、TBSで放送されていたオーディション番組「Sing!Sing!Sing!」にどハマりしたという朝井さん。水野も同じ番組をよく見ていたことがきっかけで、水野と知り合ったそうです。そんなオーディション番組愛に関する一編も収められている朝井さんの新刊「風と共にゆとりぬ」(文藝春秋)には、『肛門記』という原稿用紙100枚に及ぶ闘病記も収録されています。対談では著書を読んだ水野が、肛門科での手術、入院を終えた朝井さんの病状を気遣うところから始まりました。

水野:お尻は大丈夫ですか?
朝井:今は鬼が眠っているというか、村に伝わる悪い神が目を覚まさないようにしている…みたいな状態です。お気遣いありがとうございます。
水野:「肛門記」は非常に悲劇的な話なんだけど喜劇になっているという。一度読んでしまうと、朝井さんを見る目が変わりますね。
朝井:そうですか……良いほうに変わっていたらいいんですが。
水野:「Sing!Sing!Sing!」のお仕事でお会いして以来、一年に一度くらい会うようになりましたよね。「また食事に行きましょう」と言いつつも、なかなか叶わなくて。
朝井:一度、行ったんですよね。そのお店が、私が通っている肛門科のすぐ近くだったから、「(僕がそこの肛門科に通ってることを)知ってるのかな?」と勘ぐってしまいました。
水野:(笑)。朝井さんはすごい作家さんなのに、このままいくと肛門の話で終わってしまいそうだから話を変えましょう(笑)。朝井さんは、2年ほど前に会社員生活をやめて、専業作家になられましたけど、変わったところはありますか?
朝井:もちろん書く分量の変化はありますが、それよりも精神的な変化が大きいかもしれないですね。私たちの仕事って、誰かのお腹を満たしたりとか、誰かの病気を治したりとかはできないじゃないですか。衣食住に最低限必要なものではない。会社員でいる間は「これは何の為になるんだろう?」と考える間もなく業務が生まれ、日々が慌ただしく過ぎていったのですが、ずっと小説を書いていていいよ、という状況になると、「これは何の為になるんだろう?」といちいち自問自答をする時間が生まれてしまって。そのことは思ったよりもキツイなと思いました。
水野:書くリズムは時間と共に変わっていくものだと思うんですけど、文章も変わりますか?
朝井:小説の場合は変わっていく感覚があるんですけど、今回の「風と共にゆとりぬ」のように、エッセイの場合は何も変わらない予感がしています。
水野:そうなんですか。朝井さんのエッセイは、読んだ瞬間に面白くて…この表現が合っているのかどうか分からないんですけど、「文章版すべらない話」というか。
朝井:まさにそれがやりたいんです!
水野:こういう笑える文章のほうが”技術”を感じるというか、「恐ろしい」と思ったんです。
朝井:すごく嬉しいです。テレビで、殺人鬼とか狂人の役を務めた俳優さんばかりが実力派とか憑依型とか言われているのを見るとモヤモヤするんです。コメディを上手にできる人だって実力派だし憑依型ですよね。普通の、クスっと笑える会話のシーンとかを何の違和感もなくスムーズに演じるってめちゃくちゃ高度なことだと思うんですよ。だから、くだらないことしか書いていないエッセイで「面白かった」と言われると、後者の人たちに一票投じることができたような気がして嬉しいんです。
水野:分かります! 僕も曲を書く時に、泣かせる曲よりも、楽しい気分にさせるほうが難しいです。
朝井:難しいですよね! 小説の場合は受け取った方の解釈によって、面白いかそうではないかっていうのが変わるから、たとえ賞をいただくようなことがあっても作品の評価は永遠に定まらない感覚があるんです。そこに甘えてる部分もあったりして……ただ、エッセイの場合、私はとにかく「笑えたかどうか」が大事なので、あっという間に評価が定まるんですよね。読み手が笑わなかったらもうダメ。小説と違って勝ち負けが決まるような感覚があるので、むしろ小説を出版するときより怯えているかもしれません。

●文芸界の「関ジャム」があったら

水野:今、朝井さんは28歳?
朝井:28です。
水野:この先、人生の節目がいくつかあると思いますが、そういう節目で作品の雰囲気が変わっていく予感はありますか?
朝井:う~ん…ただ、最近周りで子どもが生まれた人が多いんですけど、わりと「書くものが変わる気がしない」みたいに言ってて、そういうものか、とも思っています。水野さんは変わりましたか?
水野:息子が生まれたことは大きくて。それこそ今までは自分が死んだら終わりだと思ってたけど、息子が生まれると、自分が死んだ後のことも真剣に想像するんです。そういう新しい感覚が自分の中にたくさん出てくるんで、それは歌にも影響してくるんだろうなって。
朝井:「父親になって作品が変わりましたね」って言われたら、それはそれで腹立ちませんか(笑)?
水野:そうかもしれませんね。作品を外側から評価するときってどうしても人は「やっぱり才能があるんですね」「天賦のものがあるんですね」というような結論に至りがちで、もちろんそれは間違ってはいないんでしょうけど…朝井さんは才能をすごい量でコーティングしている“技術”があるんじゃないかと。それを簡単に「変わった」って言われるのは嫌なんだろうなと思うんです。
朝井:私はずーーっと「みずみずしい感性」って言われ続けてきているんですけど、それって、時間と手間をかけて作ったビーフシチューとサラダを出したらサラダを褒められた、みたいな気持ちなんですよね。「”みずみずしい感性”ってつまり”若い”っていうことだけだよな」「自分なりに身につけてきたつもりテクニックの部分も、一応、あるんだけどな……」と思うところはありましたね。
水野:しかも、その技術の部分は自分からは言えないじゃないですか。
朝井:そうなんです! だから「関ジャム」(テレビ朝日)みたいな番組が文芸にもできないかなと思うんですよ。玄人が玄人の分析をするのが、こんなに面白いのかって毎週感動していて。あの番組って「みずみずしい感性」とかあんまり言わないですよね。作り手の年齢や性別を取っ払って、一人のプロとしてどこかすごいか、プレゼンしている。
水野:作家さん同士で、「この人の文章ってうまいよね」っていう話をすることってあるんですか? 僕は直木賞の選評をたまに読むんですけど、あれだと辛辣ですよね…。
朝井:「直木賞の選評」! 怖い単語!
水野:絶賛していることなんてほとんどなくて、10点満点でいえば、良くて5点。結構な割合で1点があるぐらいなことを言ってますよね。あれって、読みますか?
朝井:選評は二回経験しまして、最初は本当に読めなかったです。一度は読んだけど、その時も文章として意味を汲み取るというよりは、「図形として文字を追った」という感じでした。本当はちゃんと読まないとダメなんですけどね。直木賞は受賞したとして選評に良いことが書かれているとは限らないので、二度目も薄目で、ホラー映像を観るときみたいな感じで読みました。
水野:それは、エゴサーチで調べるのとは、違った角度なんですか?
朝井:これは選考委員の方に失礼って思われたくないんですけど、“本を読んだ人の評価”という意味では同じなので、そこにあまり差はないかもしれません。でもやっぱり、選評で珍しく良いことが書かれていると、あの人に褒められた! と舞い上がってファイリングとかしてしまうので(笑)、結局は差をつけているというか、現金な人間だなと思いますね……。


●歌詞を読む時は、宝探し気分で

水野:著書の中で「今夜はブギー・バック」の替え歌を披露宴で披露されたっていうエピソードが面白くて…。歌詞に興味を持ったりは?
朝井:めちゃめちゃ、興味あります。元々、小説に興味を持ったのも、小学生か中学生の時に、辻仁成さんの本だったと思うんですけど、低い声を表現する時に「地を這うような声」って書いてある文章があって、「低い」って書いてないのに「低い」と分かる表現に感動したからなんです。地、も、這う、も、声、も、全部知っている日本語なのに、組み合わせを変えるだけでこんなにも意味合いも響きも変わるんだな、と驚いて。歌詞ってそういう表現が多い気がするんですよ。
水野:確かに!
朝井:歌詞は、小説よりも文字数が制限されている分、そうした研ぎすまされた表現が凝縮されている感覚があって、宝探しのような感覚で読んでいます。そういう意味で、「この言葉をこう組み合わせるか!」と感動したTOP of TOPが、宇多田ヒカルさんの「Flavor Of Life」の『ダイアモンドよりもやわらかくてあたたかい未来』という歌詞。「○○よりもやわらかくてあたたかい未来」っていうとき、○○にはもともと柔らかくて温かいものを当てはめると思うんですよ。たとえば「焼き豆腐」とか。そうしたほうが、未来、がいかに柔らかくて温かいか伝わるじゃないですか。でも宇多田さんはここに、冷たくて硬い「ダイアモンド」を当てはめたんですよね。これにすっごく驚いて。実際、『ダイアモンドよりもやわらかくてあたたかい未来』のほうが、『焼き豆腐よりもやわらかくてあたたかい未来』よりもやわらかくてあたたかく感じるんですよ! 比較対象が冷たくて硬いのに! 一体どういうこと!? みたいな見方で、歌詞を楽しむのが好きです。
水野:なるほど。
朝井:でもこれって小説でも言えることで、たとえば「夏は暑い」って書いても、それは読者の心を突くような共感にはならないんですよね。全員が間違いなく感じたことがあることなのに。それよりも、夏なのにものすごく寒かった一瞬とか、そういう、この感覚って自分だけなのかな、というひどく個人的な感覚を書いたほうが、ものすごく広い共感を呼んだりするわけです。だけど本当に個人的なことばかり書いてしまうと独りよがりな作品になって誰の心も突けなかったりするので、言葉選びのバランスは本当にセンスが問われますよね。そういう意味でいきものがかりさんは国民的な支持とたった一人の共感を両方得ているので神業だなと思っています。
水野:ありがとうございます。朝井さんは、NHK全国学校音楽コンクールの合唱曲の歌詞を書かれましたけど、他の歌詞は書かないんですか?
朝井:あの時は、詞を書いて、後からメロディーをつけていただけるっていうことだったんで、歌になることを考えずに書けたんですよ。歌詞のお仕事ってきっと、メロディーをいただいて、そこに言葉を載せるっていう作業ですよね? それはなかなか怖くて手を出せないけど、その中で自分で宝探しをしたい気持ちもめっちゃくちゃあります……。
水野:今度は僕から発注しますよ(笑) 。またそういうことで繋がれたら面白いですよね。
朝井:いや、「こんなものか…」て、僕のことをめちゃめちゃ軽蔑するかもしれないですよ。
水野:そんなことないですよ(笑)。

そして不定期にお送りしている水野のスペシャル対談。次回のオンエアは9月28日(木)、お相手には、コラボーレションも話題のバカリズムさんをお迎えします。水野良樹×バカリズム、お聴き逃しなく!

【番組情報】
番組名:「SONAR MUSIC」
放送日時:月・火・水・木曜 23時30分-25時
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/sonarmusic/

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