日大アメフト騒動はなぜ起きた? 教育や社会に蔓延する「ダークペダゴジー」とは

J-WAVEで放送中の番組『JAM THE WORLD』(ナビゲーター:グローバー)のワンコーナー「UP CLOSE」。6月6日(水)のオンエアでは、水曜日のニュース・スーパーバイザーを務めるフォトジャーナリスト・安田菜津紀が登場しました。

日本大学アメフト部の「悪質タックル問題」から1ヶ月。なぜ起きてしまったのかを検証していく上で、重要なキーワードになるのが「ダークペダゴジー」という言葉です。どういうものなのか、教育社会学・教育科学が専門の東京電機大学理工学部助教・山本宏樹さんにお話を伺いました。


■暴力や強制、嘘…ダークペダゴジーとは何か

まず、「ダークペダゴジー」という言葉について解説していただきました。

山本:簡単に言うと、暴力や強制や嘘、マインドコントロールなど、後ろ暗い手法を用いた教育方法のことです。「ペダゴジー」は「子どもを導く」というギリシャ語から来ています。
安田:「パワハラ」などとは違うもの、という扱いなんでしょうか。
山本:はい。似ているので区別するのは難しいのですが、パワハラの中には無理やり退職を迫るといった“排除”が含まれているのに対して、「ダークペダゴジー」は“他人の人格を変化させる”ということに重きが置かれます。

今回の日大の危険タックル問題に当てはめると、どのあたりに「ダークペダゴジー」が使われていると分析できるのでしょうか。

山本:あくまで報道に基づく推測ですが、典型的な「追い込み指導」だと言えそうです。「試合に出さない」「このままでは退部だ」など生徒を窮地に追い込んで、試行錯誤させることで強く育てようとする教育方法です。軍隊の新兵教育や、自己啓発セミナーなどでも用いられる方法です。ギリギリまで追い込んだあとでしっかりと褒めることで、努力したことによる成果と、努力を認めてくれた教師への感謝が生徒側の手元に残ってハッピーエンドになるという教育方法なんです。

心理的な依存や支配が起きる「ダークペダゴジー」。安田は「監督・コーチの指示を拒否すると試合に出られない、指示を受けて許容しても相手選手を傷つけてしまう。今回の事件で、日大の加害者選手はどの選択を取ったとしてもいい結果が得られなかったと思う」と指摘しました。

山本さんは、今回のケースの問題点をこのように指摘します。

山本:選手が加害者側になったときに使われた状況を「ダブルバインド」と言います。相手のQBを潰せという指示に、承諾しても拒絶してもペナルティが待っている、厳しい、逃げ場ない状況です。これは児童虐待やパワハラでも見られる状況なんですが、指示を出された時点でバットエンドが確定している。しかも怖いのは、どちらかを“選択した”という事実によって、結果が自己責任化されてしまうことです。今回の監督に関して言えば、「指示はしていない、あくまでも忖度なんだ」と自己責任を強調していますので、本当に厳しい状況だったと思います。

さらに事件後、世間で「監督の指示を拒否すればよかったのではないか」という、ある種の正論が飛び交ったことについては、こう話します。

山本:社会心理学の多くの実験でも、このような状況で権威のある相手から指示された場合、拒否するのは極めて難しいということがわかっています。その理由として道徳や倫理観が刺激され、目上のものに対する敬意や、組織に対する忠誠心、「他人の願いに応えなければならない」という義務感が働くので、拒否するのは難しかったのではないでしょうか。


■ダークペダゴジーは「教え育む場」で見受けられる

山本さんによると、ダークペダゴジーは、「教え育むという営みがあるところでは、どこでも用いられる可能性がある」もの。企業、宗教、軍隊、警察、家族、恋愛関係の中、病院、政治など、どこでも見受けられるのです。その一例として、「体罰は愛のムチ」、「ミスをしたら殴られて当然」といった価値観を刷り込むことを挙げました。

また日大のアメフト部の例については「マキャベリズムという、勝つためには手段を選ばなくてよい、勝つことが全てだという価値観があります。企業の中など競争の激しいところでは、勝ち残るために手段を選ばないという風潮が高まります」と指摘しました。

一方で山本さんは、少年院教育を例に「少年院では長いときには1年以上にわたり社会から隔離された環境で濃密な教育が行われ、体罰はないですが、少年が暴れる場合に怒鳴ったりして制圧することもあります。少年が自分を見つめ直すために小部屋にひとりきりにさせることもあり強制的な要素を含みます。少年の育ち直しのために、異論はありますが、今のところ許されている状況もある」と「ダークペダゴジー」の廃絶ついての難しい面を挙げ、教育に関して一概にルールで区切り禁止するよりは、その都度起きてしまった要因を検証し、個人にあわせた教育や、これ以上は越えてはいけないという一線を引くという両方が必要であると語りました。


■再発防止には「リミッターをかける」のが有効

今後、日大の事件のような暴力的な支配が起きないためには、どのようなことが求められるのでしょうか?

山本:ひとつは「ホワイトペタゴジー」という、褒めて伸ばす教育のような倫理的に問題のない教育方法を見つけ、教育者を育てることが必要です。ただ、これは時間もお金もかかり、教育者が暴走して聞く耳を持たないとなると、なかなか実現しづらい。「ホワイトペタゴジー」を可能にするためには、「アンチペタゴジー」という対策が重要です。これは「反教育学」という訳で、教育の肥大化や暴走にストップをかけるような仕組みを社会に作っていく方向性になります。日大タックル問題に関しては、練習時間や試合出場時間に上限設定をかけていくことが、リミッターとして機能すると思います。アメフトだけではなく、日本の高校や部活動だと、「勉強もバイトも就活も恋愛も全部せずに部活に命を捧げるのが偉い」という空気がありがちです。リミッターがないので、部員の持ち時間を全部投入したものが有利になる、という構造がある。これを変えていく必要があると思います。海外ではスポーツでリミッターをかけるということが非常に増えています。

山本さんは部活全体に制度的にリミッターをかけるガイドラインの必要性や、密室で起きがちな部活動などでの暴力の支配や、暴力の継承に歯止めをかける制裁的な措置や、暴力が起きたときに通報する窓口を作る必要性なども挙げていました。

山本:この問題は、とても大きな視野で考える必要があると思います。一番大きな視野は「ダークペタゴジー」というある種の方法論、現象は人間に寄生するウィルスのようなものと考えることできるんだと思うんです。今回のケースを選手や監督の人格の問題に全て還元するのでは、同じことが繰り返されるので、「ダークペタゴジー」の感染メカニズムを理解して構造的に抑え込んでいく必要性があります。

最後に「条件さえ揃えば誰でも支配されるし、支配者にもなりえる。加害者にも被害者にもなりえるということを覚えておく必要があります」と語った山本さん。「ダークペタゴジー」の仕組みを一人でも多く知り、問題を解決する情報共有や声をあげる環境づくりが重要と話しました。

次週、6月13日(水)の『JAM THE WORLD』では、カンヌ国際映画祭パルムドールを受賞した映画監督、是枝裕和さんをゲストに迎え、水曜日のニュース・スーパーバイザー安田が、映画『万引き家族』について、そして作品で取り上げた家族の在り方などについて語ります。お聴き逃しなく!

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【番組情報】
番組名:『JAM THE WORLD』
放送日時:月・火・水・木曜 19時-21時
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/jamtheworld
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