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マイノリティは不幸ではない。不幸にさせる「環境」に問題がある…2018年の重大ニュースを安田菜津紀が総括

マイノリティは不幸ではない。不幸にさせる「環境」に問題がある…2018年の重大ニュースを安田菜津紀が総括

J-WAVEで放送中の番組『JAM THE WORLD』(ナビゲーター:グローバー)のワンコーナー「UP CLOSE」。12月26日(水)のオンエアでは、グローバーがお休みのため津田大介がナビゲーターを務めました。「UP CLOSE」のコーナーでは水曜日のニュース・スーパーバイザーを務めるフォトジャーナリスト・安田菜津紀が登場。「安田が選ぶ2018年の重大ニュース・トップ5」をお届けしました。


5位:福田次官による記者へのセクハラ・入試差別などのジェンダー問題

今年はジェンダー問題やセクシュアルマイノリティの問題が目立ちました。

安田:入試差別を見てみると「女性はこれ以上は採れない。なぜなら子どもを産んで仕事を辞めるかもしれないから」という視点がありました。子どもを産まないと生産性がないと言われ、子どもを産んだら仕事を辞めてしまうから大学に入れられないとなると、女性はどうしたらいいのだろうとなります。

子どもを産むから大学に入れないのではなく、子どもを産んでも働けるような環境にすることに議論を向けることが重要だと話します。

安田:福田次官による記者へのセクハラ問題の際に、被害記者が会話を録音すると「なんで録音するんだ」という声があがりました。これで「録音はダメなんだ」「責められてしまうんだ」と躊躇してしまう人がいないように、身を守るための録音が必要だと何度も伝えないといけないと思います。また、被害女性に対して加害者側の弁護士に「名乗り出られないの?」と声が上がりました。でも被害者が名乗り出ることは非常にハードルが高いので、それによって「名乗り出られない私がダメなんだ」と被害者が自分を責めないような発信が不可欠だと思います。


4位:杉田水脈議員の『新潮45』への寄稿文をめぐる問題

性被害は「魂の殺人」と言われます。それに近い問題だと安田が指摘したのが、『新潮45』に杉田水脈議員が寄せた寄稿文です。 津田:安田さんがこの問題でいちばん注目したのはどの点ですか。
安田:たとえば、この寄稿文の「生産性」という言葉が注目を浴びていますが、それ以上に気になったのが「不幸」という言葉でした。寄稿文には「同性愛であることをもって不幸な人を増やしてしまう」という内容がありました。ここには「何かのマイノリティであることが不幸なのではなくて、それであることで不幸になってしまう環境に問題がある」という視点が欠落しているように感じます。

加えて、杉田議員も自民党もほぼレスポンスがなく『新潮45』も休刊して幕引きした状況に対して、「沈黙は無害なだけではなく、それ自体が暴力的な構造に加担してしまうんだと改めて突きつけられた」と語りました。

3位:西日本豪雨

今年は災害の多い1年でした。安田は、西日本豪雨で広島や岡山に訪れ、言葉のマイノリティを持つシリア人のコミュニティを取材しました。

安田:来日して間もない人や、日本語がうまく話せない人から、防災無線が聞き取りづらいと声があがりました。外国人技能実習生の人たちはそもそも日本語がわからないので、防災無線を理解できなかったと話していました。また、災害で命が助かった場合でも、社宅が土砂に流され大けがをしてしまったという声もありました。入管法改正の成立により今後さらに外国人が増えることが予想されるなか、災害が発生したときに彼らにどう情報を届けていくのかが近々の課題だと思います。


2位:シリアからアメリカ軍が撤退

2011年の3月に起きた中東の民主化デモが起点となり、いまだに人口の半数以上とも言われる1,000万人以上のシリア人が国内外で避難生活を送っています。これについて安田は……。

安田:今年、アメリカ軍がシリアから撤退したことも大きなニュースとなりましたが、4月にシリアでまた化学兵器が使われたのではないかという疑惑が持たれ、それに対してアメリカが空爆を行ったことも忘れてはいけません。

「空爆は誤ったメッセージを送ってしまった」と安田は見解を述べます。

安田:それまでもシリアでは病院や学校が空爆されるなど、いろんなかたちで虐殺が行われてきました。
津田:アサド政権がとにかくひどい虐殺をしていた状況がありますからね。
安田:そうですね。ただ、化学兵器だけに反応することによって、「化学兵器は見過ごさないけど、それ以外の虐殺は見過ごす」というメッセージにもなりかねません。

この状況のなか、アメリカ軍が撤退すると、ある問題が起こる可能性がある……と安田は言います。

安田:シリアの北部ではクルド人たちがアメリカ軍と手を組んでISの掃討作戦を続けていた。それによって力をつけてきたクルド人の勢力を、シリアの隣国であるトルコはよく思わず脅威に感じていました。アメリカ軍が中途半端に関わって撤退することによって、おそらくクルド人の勢力をトルコが越境して攻めてくるだろうと言われています。シリアのクルド人たちは「トルコが攻めてくるのであれば、そこに力を注がなくてはいけない」となり、ISに対しての優先度が低くなっていきます。
津田:そうなるとISが息を吹き返すこともありますよね。
安田:その通りです。可能性レベルですが、クルド側が今拘束している1,000人以上のISの兵士たちを釈放するかもしれないと言われています。
津田: ISの兵士の捕虜を維持するだけでも大変なんでしょうね。
安田:そうですね。イラクではアメリカ軍が撤退したあとの空白地帯で虐殺が起きてしまい、それが結局、ISを生み出すバックグラウンドになってしまった事例もあります。それと同じようなことがシリア国内で繰り返されようとしているのではないかと問題提起する必要があると感じています。


1位:入管難民法改正案の成立

入管難民法について、「いろいろな外国人の権利の問題を提起してきた」と安田。

安田:外国人技能実習生の問題であったり、入管での長期収容の問題であったり。
津田:どんどん問題になっているけど、なかなか改善されない状況にありますよね。
安田:その締め付けがさらに厳しくなっていると感じます。先日、日本人と結婚をしている外国人男性を取材しました。奥さんは妊娠中だけど、それでも彼は入管施設に収容されている状況にありました。入管の仕組みでは奥さんから入管の施設にいる彼に対して自由に電話はできず、彼から電話をする手段しかありません。お互いが自由に意思疎通をすることができないことがありました。

また、難民についての問題について、こう言及します。

安田:難民認定を受けられずに長期収容されている外国人もいます。難民の人たちは「あなたはなぜこの国に逃れてきたのですか?」と問われますが、そのときに通訳が必要になります。そういった密室では緊迫して誤訳が起こりやすくなるのですが、録音や録画の仕組みがありません。すると、実際に難民認定の裁判になったときに、「ここではこう言っているじゃないか」と書類と裁判の証言で齟齬が出てきてしまいます。
津田:そんなこともあるわけですね。
安田:入管難民法改正案の議論は、外国の人たちが安心して来られる仕組み自体がまだまだ穴だらけの状況だということを浮き彫りにしたと思います。
津田:外国人の受け入れ体制がほとんど白紙状態で入管難民法改正案を進めているので、日本人と外国人労働者との分断が深刻化してしまい、それが社会不安を招いてしまうのではないかと感じます。
安田:私たちは働く機械を導入する議論をしているわけではなく、血の通った人間に来ていただく議論をしているので、そこが根本的に違えてしまっていると思います。

多くの問題が浮き彫りとなった2018年。果たして2019年にはどのような動きがあるのでしょうか。

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【番組情報】
番組名:『JAM THE WORLD』
放送日時:月・火・水・木曜 19時-21時
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/jamtheworld

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