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なぜ村上春樹はノーベル賞をとれないのか? 猪瀬直樹が「作家」を紐解く

なぜ村上春樹はノーベル賞をとれないのか? 猪瀬直樹が「作家」を紐解く

J-WAVEで放送中の番組『STEP ONE』(ナビゲーター:サッシャ・寺岡歩美)のワンコーナー「AMERICAN EXPRESS PICK ONE」。300万人が使っているソーシャル経済メディア「NewsPicks」とコラボレーションしているコーナーです。

12月25日の週は、3日間かけて「NewsPicksアカデミア」の会員向けにゼミを担当されている作家・猪瀬直樹さんのお話から、未来を読み解くヒントを探りました。


■1日目:なぜ村上春樹はノーベル賞を獲れないのか?

初日は「なぜカズオ・イシグロはノーベル文学賞を獲れて、村上春樹は獲れないのか?」をテーマに猪瀬さんに伺いました。猪瀬さんは、映画『ウィンストン・チャーチル / ヒトラーから世界を救った男』『ダンケルク』、そしてカズオ・イシグロさんの書いた小説を原作にした映画『日の名残り』、この3つの作品を重ねてみるとその理由が見えてくる、と話します。

猪瀬:この3つを重ねると、歴史というのがあるよね、ということが見えてきます。歴史っていうのは公の時間ですよね。ダンケルクの戦いっていうのはヨーロッパでは誰でも知ってることですから。
サッシャ:転換点ですからね。
猪瀬:そういう戦いがあって、その時に貴族の屋敷で何が話し合われていたかという話ですね。カズオ・イシグロの『日の名残り』という小説はね。そこで男女の恋愛があったと。その男女の恋愛は私(わたくし)の時間なんだけど、後ろに公の時間が流れている。
サッシャ:どういう時代背景で、というところですね。
猪瀬:公の時間の中に、私のドラマがある。その緊張関係がよく描かれているからノーベル文学賞になるんだよね。そこなんですよ。

一方、村上さんの小説は戦後の何もない空虚の世界を描いており、その空虚な時間のためになかなか恋愛が成就しない、不毛な愛が続く、でもそれが私たちの姿である……という内容だと解説。

猪瀬:でも、「それを描いて何になるの?」ということなんだよね。戦後の空虚な日本そのものを描いてもそれは歴史ではない。戦後の空虚な日本というのは、ディズニーランドみたいなもので、アメリカが全部の安全保障を肩代わりしているわけですから。

安全が保障されていて、生存本能を刺激されることのない世界で、何か小さなドラマがあったとしても、それはそれだけに過ぎない、とも猪瀬さんは言います。

猪瀬:やっぱり作家というのは、ある言葉の世界で世界を描くというか。非常に小さなドラマを描いているようで背景をきちんと描くと、その時代が全部浮き彫りにされてくるという、そういう仕事をやるべきですよね、本来はね。

【初日のオンエアをradikoで聴く】


■2日目:現代のインターネット社会は、明治維新以降に似ている

2日目は「作家の歴史を読み解けば、未来へのヒントが見えてくる」をテーマに、「今後の日本がどうなるのか?」という構想を描く作家が少ない理由を解説しました。

猪瀬さんによると、作家は「国民国家の中で誕生する」もの。これは、どういう意味なのでしょうか。

明治維新より前――江戸時代の日本は、300の“国”がある、いわゆる国連のようなものだったと、猪瀬さんは言います。

猪瀬:300の国の連合体が日本で、みんな自分の里山が自分の故郷であり、自分の世界だと思っていました。それは、英語だと「パトリオティズム」と言います。

江戸時代は、それぞれの故郷が自分の“国”であって、まだ「日本人」という意識はありませんでした。それが明治維新以降、300の国が日本というひとつの空間になり、この時にパトリオティズムからナショナリズムへの転換が起こりました。

猪瀬:各国にひとりひとり若者がいるとする。突然、世界がパトリオティズムからナショナリズムになると、「俺、どこにいるんだっけ?」となるわけです。「俺ってなんだっけ?」「何者なんだろう?」と、自分とは何か、と考え始める。それと、もうひとつ、マーケットがひとつになるんですね。これはインターネットの始まりと似てるんですよ。

その中で、新聞・雑誌などのメディアが登場。その投稿欄に、人々は自分の存在を投稿し始め、その中から作家が生まれてくる、と猪瀬さん。「国民国家から作家が生まれる」というのは、このような意味です。

そこから学校教育が進み、これまでの各地方の方言ではなく、みんなが理解できる標準語が全国に広まります。それによって言葉のマーケットが広がり、作家が誕生したという経緯があります。

猪瀬:そういう中で、日本の行く末について「ちょっと待てよ」という作品を書いていけばよかったんだけどね。そういうこともあったんだんだけど、第二次世界大戦の中で、そういった作家はほとんど消えていったんです。太宰治のような私小説にいっちゃう。
サッシャ:それは軍の統制があったからですか?
猪瀬:というか、無関心だった。つまり軍事についての知識がなかった。そういうこととは別に、作家の市場が私小説のほうが売れたんだよね。

そのため「今後の日本がどうなるのか?」という構想を描く作家がなかなか出てこなくなってしまった、と解説しました。

【2日目のオンエアをradikoで聴く】


■3日目:日本のムダは「縦割り、年功序列、終身雇用」

最終日となるこの日、「NewsPicks」からピックアップした記事は、「落合陽一は日本のムダとムラを壊す救世主」。この記事では、猪瀬さんが落合さんについて語っています。どうして落合さんを「日本の救世主」と考えるようになったのでしょうか。

平成が来年に終わろうとしている日本。今後、将来的にどういった世界を作りあげていくかが日本の課題だという猪瀬さん。そのことについて猪瀬さんは落合さんと話をしています。

猪瀬:落合くんは若いですよね。僕と落合くんが対話するところで何かを生み出していかないと。僕の経験を伝えながら、落合くんのデジタルネイチャー的な世界をもっと広げていってもらいたいなと思っているんです。
サッシャ:そもそも記事のタイトルからいくと、「ムラ」「ムダ」は壊せるんですか?
猪瀬:年功序列、終身雇用がやってられないわけです。「ムダ」っていうのは縦割りなんだよね。縦割りのムダがいっぱい出てきちゃってて。縦割りと年功序列と終身雇用を変えないと。これは日本の悪い文化なんです。かつてそれが良かった時代もあったんですけど、それをどうしても超えていかないとならないんで、新しいものを作っていかなきゃいけないんです。

そこで落合さんは「テクノロジーにはできることがいっぱいある」と、猪瀬さんに言いました。ヨーロッパの真似をするのではなく、日本の持っている伝統的なわびさびを踏まえた上で、ヨーロッパの近代モデルを吸収しつつ、日本独自の近代国家を考えていかなくてはいけない、と猪瀬さんは話します。

サッシャ:コンテンツとして、日本はどういう強みがあるのかっていうのを考えていかなきゃいけないということになるんですけど。
猪瀬:伝統的なものは、本当は日本の強みなんですよ。
サッシャ:そうですよね。
猪瀬:伝統的なものはふたつあって、古いダメな習慣と、伝統的なものが持っている文化の良さです。適材適所という言い方はある意味、日本の伝統的な言い方なんです。だから公平とか平等というのと、適材適所っていうのをうまくミックスしないとダメなんです。

猪瀬さんがこれまで培ってきた経験と、落合さんの新しい発想がミックスされることにより、どんな今後の日本のビジョンが浮かび上がるのか、期待したいです。

そんな猪瀬さんと落合さんの共著『ニッポン2021-2050 データから構想を生み出す教養と思考法』が今年10月に発売されています。興味のあるかたは、チェックしてみてはいかがでしょうか。

【3日目のオンエアをradikoで聴く】

【番組情報】
番組名:『STEP ONE』
放送日時:月・火・水・木曜 9時-13時
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/stepone/

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