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日本のテクノシーンの歴史と、KEN ISHIIの歩みを振り返る―石野卓球からのコメントも

日本のテクノシーンの歴史と、KEN ISHIIの歩みを振り返る―石野卓球からのコメントも

1980年代後半、デトロイトで生まれたエレクトロニックミュージックが、アメリカ全土、そして海を超えたヨーロッパで大きなムーブメントに変化を遂げようとしていた。とあるインタビュアーが、そのエレクトロニックミュージックを作り出したデトロイトの青年に「君たちの音楽をなんて呼んだらいいかな」と訊ねると、こう答えた。「俺たちはテクノって呼んでる」。

日本では90年代に入って、アーティスト・KEN ISHIIが登場したことにより、テクノがひとつのジャンルとして定着することになった。J-WAVEでは11月24日(日)、「J-WAVE SELECTION KEN ISHII 1994-2019」と題して、今年で日本デビュー25周年を迎えるKEN ISHIIの軌跡を振り返り、今後のテクノシーンに迫る番組をオンエアした。ナビゲーターはLicaxxx。KEN ISHIIは11月27日(水)、13年ぶりのニューアルバム『Möbius Strip』(メビウス・ストリップ)をリリースする。

【この記事の放送回をradikoで聴く】(2019年12月1日28時59分まで)


■KEN ISHII、テクノとの出会いは?

まずはKEN ISHIIがテクノの出会いについて語った。

Licaxxx:KENさんがテクノと出会ったきっかけはなんだったんですか?
KEN ISHII:いわゆるダンスミュージックのテクノで言うと、1980年代後半ですね。藤原ヒロシさんたちがやっていた深夜のラジオ番組で「新しいダンスミュージックが生まれてきた」とデトロイトテクノを紹介していて。その頃に、イギリスのメジャーレーベルからデトロイトテクノのコンピレーションが出始めていて、その紹介だったと思う。それを聴いて注目したのがテクノとの最初の出会いでした。

大学生になったKEN ISHIIはDJに憧れを抱き、仲間たちとDJ機材を手に入れて大学のクラブハウスのような場所でDJの練習をしていたという。その後、1993年にAphex TwinやJuan Atkinsなどを輩出したベルギーの名門テクノレーベル「R&Sレコーズ」からデビューした。

Licaxxx:いくつくらいのときですか。
KEN ISHII:当時、23歳でまだ大学生でした。自分でR&Sレコーズにカセットテープを送って、それに返事がきたというシンプルなものでした。
Licaxxx:そっか。カセットですよね。今みたいに、トラックを(ネットで)ペロッと送るんじゃなくて。
KEN ISHII:いろいろ大変でしたね。1990年代前半はR&Sレコーズは、シカゴ、ニューヨーク、デトロイト、ロンドン、ベルリンとか、テクノのトップアーティストをみんな集めていたから「ここしか狙うところはないだろう。上から攻めていこう」と。そうしたら意外とすんなり返事がましたね。

KEN ISHIIはR&Sレコーズと何度が手紙とカセットのやりとりを重ねた。「この曲とこの曲でアルバムを作ることになった」と言われ、そこからファーストアルバム『Garden On The Palm』の制作に入ったと当時を振り返った。

Licaxxx:それは、仲間の反応とかすごかったんじゃないですか?
KEN ISHII:仲間がそんなにいなかったから(笑)。大学で一緒にやっていた仲間と、あと数人くらいだよね。DJやテクノを好きなやつ以外、(R&Sレコーズを)誰も知らないから。


■石野卓球から見たKEN ISHII

そうしてリリースされた『Garden on the Palm』でKEN ISHIIを知った石野卓球から、コメントが届いた。

石野:初めて(KEN )ISHIIくんを知ったのは1990年代前半。ヨーロッパのレコード屋でISHIIくんのデビューアルバムが出ていて、そこの店員から「お前は日本人か?」「ケニシって知ってるか?」って言われて(笑)。そこでそのアルバムを聴いたのが最初でした。それまで日本のミュージシャンにはいないタイプでしたね。そこからリミックスをお願いしたり、DJで一緒にプレイする機会も多いですよね。俺はけっこう寄り道が多いんだけど、ISHIIくんはストイックにテクノを貫き通しているから素晴らしいと思います。

一方のKEN ISHIIは、もともと電気グルーヴを知っていたが、「自分のジャンルではない」と遠くに感じていた。しかし、『Garden on the Palm』を出してすぐにオファーを受けて、『N.O.』をリミックスを手がけた。

Licaxxx:(石野)卓球さんの人柄や音楽性はどう思いますか?
KEN ISHII:おもしろい(笑)。普通、何人か仲間がいるときに場を盛り上げようとする人っていると思うけど、二人で喋っててもおもしろいですね。音楽を作ったらストイックで、いろんなチャンネルを持っていて、プロフェッショナルという感じがしますね。

石野は、KEN ISHIIについて「同級生というか、同じ釜の飯を食ったというかね。だんだん歳も取ってきたから戦友というか、同じ思い出を共有した仲間のひとり」ともコメントした。


■日本のテクノシーンの軌跡

KEN ISHIIは1994年に逆輸入という形で日本デビューを果たした。当時の日本は「そろそろテクノがきそうだな」という雰囲気があったという。

KEN ISHII:東京・新宿LIQUIDROOM(※現在は恵比寿に移転)とかが、毎週のようにテクノとかそれに近い音楽をやりはじめたくらいだった気がします。テクノの大爆発前夜って感じですね。

1996年、富士山の3合目で1万8千人を集めた日本初の大型テクノフェス「RAINBOW 2000」が開催。出演は日本からKEN ISHII、石野卓球、audio active、細野晴臣など。海外からはUnderworldなど、豪華なアーティストが出演した。このフェスは日本のテクノシーンがムーブメントになった象徴的な出来事となった。

KEN ISHII:日本にこういったフェスがなかったから、いろいろとトラブったりしたような気がするけど、すごく楽しかったですね。

1999年には石野卓球がオーガナイザーを務める大型屋内レイヴ「WIRE」がスタート。2003年以降、KEN ISHIIもほぼ毎年出演した。「WIRE」に続き、2000年にはイギリスのレコードレーベル「Warp Records」を中心とした屋内レイヴ、テクノフェス「Electraglide」や、デトロイトテクノ系を中心としたフェス「METAMORPHOSE」が開催され、日本に多くのクラブがオープンしていった。

KEN ISHII:「WIRE」は(石野)卓球くんとか電気グルーヴが連れてきてくれたメインストリームのお客さんと、もともとアンダーグラウンドでテクノが好きだったお客さんがガッツリ融合して、ある意味でそれの最終形態のような感じでしたね。あと、卓球くんのこだわりとして、大きな会場になってもテクノだけで、それ以外の派生したジャンルとかコマーシャルなものは全然入れなかったことも素晴らしいなと思います。

2000年代以降、KEN ISHIIがDJでよく流したテクノアンセムとして、Joris Voornの『Incident』をオンエアした。


■この5年でテクノシーンが戻ってきた

世界のテクノシーンでは、2010年に毎年100万人規模を集客するドイツ・ベルリンの大型レイヴ「Love Parade」が事故により中止。その後、EDMが盛り上がりをみせ、ベルギーの「Tomorrowland」やアメリカ・マイアミの「ULTRA MUSIC FESTIVAL」など、巨大フェスが開催されるようになった。KEN ISHIIはEDMシーンについて、こう語った。

KEN ISHII:音楽のジャンルとして、ついにアメリカでもメインストリームになったかという思いがあります。ただ、EDMは芸能に近いイメージですね。それまでロックフェスティバルしか行かなかった人たちが、急にEDMのフェスティバルに行くようになったのは、そういった海外の大きなEDMのフェスがきっかけだったのかな。でも、今はみんながEDMをよく分からなくなっているような気がしている。単純にコマーシャルな方向に行ききった部分もあるだろうし、反対にだんだんシブくなって人たちもいるだろうし。お客さんもEDMの好みが分かれてきたみたいだしね。

「日本では分からないけど」と前置きしつつ、「今、ヨーロッパやアメリカはEDMから少しずつテクノに流れている」とも話す。

KEN ISHII:海外では5年前くらいにテクノはいったん盛り上がりきって、そこからはみんなが「テクノは厳しい」って話がけっこうあり、一度落ちた気がします。会場の人もクラブのあまりいい話は聞けなかったけど、この5年くらいで完全にテクノが戻ってきた感じがします。どこいってもテクノが流れるし、お客さんも昔から聴いている人から若い人もいる。そういう点は日本とは若干違うけど、そういう意味ではヨーロッパなどは常に日本のいいお手本になっていると思うから、日本もそうなってくれたらなと思いながらいつもプレイしています。

番組では他にも、この番組のためだけにKEN ISHIIがコンパイルしたニューアルバム『Möbius Strip』の音源からのスペシャルミックスや、このアルバムにも参加しているJeff Millsからのメッセージなども紹介した。ぜひradikoでチェックしてほしい。再生は2019年12月1日28時59分まで。

『J-WAVE SELECTION』では、いま注目するさまざまなトピックをお届け。放送は毎週日曜日の22時から。お聴き逃しなく。

【この記事の放送回をradikoで聴く】(2019年12月1日28時59分まで)
PC・スマホアプリ「radiko.jpプレミアム」(有料)なら、日本全国どこにいてもJ-WAVEが楽しめます。番組放送後1週間は「radiko.jpタイムフリー」機能で聴き直せます。

【番組情報】
番組名:『J-WAVE SELECTION』
放送日時:毎週日曜 22時-22時54分
オフィシャルサイト: https://www.j-wave.co.jp/original/jwaveplus/

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