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「取材されるのって、こんなに傷つくんだな」 話題のドキュメンタリー映画『さよならテレビ』監督の実感

「取材されるのって、こんなに傷つくんだな」 話題のドキュメンタリー映画『さよならテレビ』監督の実感

テレビはかつて、国民にとってなくてはならない存在だった。しかし、メディアコンテンツが巷に溢れる今では「若者のテレビ離れ」が急速に進んでいる。家にテレビ自体がない人も少なくないだろう。また、“マスゴミ”と揶揄されることも増えてしまった。

そんな中、テレビの番組作りの裏側に迫ったドキュメンタリー映画『さよならテレビ』が公開され話題を呼んでいる。監督を務めたのは、東海テレビ報道部ディレクター・圡方宏史さんだ。

東海テレビはこれまで、『人生フルーツ』『ヤクザと憲法』など異色のドキュメンタリーを制作、劇場でも公開し話題を集めてきた。今回なぜ、身内であるテレビ局を題材にしたのか。映し出そうとしたのは何だったのか。1月2日(木)放送の『JAM THE WORLD』のワンコーナー「UP CLOSE」で、ナビゲーターのグローバーが、作品について詳しく訊いた。

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■観客が期待する「マスゴミの闇」を出さなければいけない

本作はもともと東海地方のみで放送されたもの。評判が広まったことで、全国の劇場で公開となった。報道部のディレクターである圡方さんは普段、報道フロアのデスクとしてニュースの番組を担当している。

圡方:管理側として、若い記者やディレクターの書いた原稿をチェックしたり外部のディレクターが作った映像に意見したりしています。(視聴者に)批判される側ですね。
グローバー:まさに“マスゴミ”と思われるような立場にいるということですね。

そんな圡方さんは同作で、テレビの“マスゴミ”的な部分を映さなければ、と考えていたのだという。

グローバー:舞台挨拶で一般のお客さんの反応を見て、いかがでしたか。
圡方:テレビの闇みたいなものを期待していらっしゃる方が多いだろうとは思っていました。「マスゴミの陰謀を映しているんだろう」と。でも映っているのは意外とテレビ局の日常。期待していたのに、「あれ、自分たちと変わらない人たちじゃん」とがっかりされるんじゃないかなというのは怖かったですね。
グローバー:自分たちは“マスゴミ”という世間のイメージとは違うという思いですか?
圡方:マスゴミ的な部分もあると思いながら仕事をしています。今回の映画では「その部分をなんとか出さなきゃ」というプレッシャーがありました。それは正義感というより、テレビの人間なので良くも悪くも、観ている人の求めているものに応えたいという感覚です。1年7ヶ月間取材をしたんですが、とにかく「マスゴミ的な部分を出さなきゃ!」とずっと焦っていました。




■どんな組織にも共通する問題が浮き彫りに

本作は東海テレビの報道番組を舞台に、視聴率獲得に奮闘するテレビ局報道部とそこに翻弄されるキャスターや外部記者を通して、メディアが抱えている問題にスポットを当てた。

圡方:特に報道やドキュメンタリーがそうですが、本来のメディアって、世の中で話題になっていることを撮って視聴者の方に見せる役割ですよね。でも今、これだけメディアが騒がれているのに、自分たちにカメラを向けずにいるのは気持ち悪いと思っていました。東海テレビはプロデューサーが「ドキュメンタリーのテーマにタブーなし」と言ってくれているので、じゃあやってみたいなと思い、プレゼンしたんです。

ドキュメンタリー映画『さよならテレビ』場面写真

主人公的な立ち位置として描かれるのは、新しく番組に参加する男性キャスター、外部のベテラン記者、同じく外部の新人記者の3人。そこで浮き彫りになるのは、テレビ局だけではなく会社という組織の難しさだ。

ドキュメンタリー映画『さよならテレビ』場面写真

圡方:番組から外されたり働き方改革に翻弄されたりする3人です。特に外部の新人記者の子に関しては、同じ会社ならまだしも外部の新しい人材を育てる余裕がない……というテレビ局の実情が表現できました。こういうケースはどの会社でも起きていることなのかなと。
グローバー:本作を監督して、組織としての難しさはどう感じましたか?
圡方:テレビは歴史が長いので、昔のスタイルでトップダウンなんですよね。現場に裁量がなく、物事を決めるためには上におうかがいを立てなければいけない。そうするとやりたいことではなく、自分たちで勝手に忖度して上の人たちの顔色をうかがいながらやるようになります。でも、組織が長くなってくるとこれは絶対に起こる。テレビも若い人たちの声をくみ上げたらもっと違う展開があるんですけど、彼らには決定権がないし、組織なので上の人たちが認めない。僕も年齢的には上の人なので結局、旧態依然としたやり方が続いているからつらいですよね。


■テレビ制作者が考えなければいけないことは何か

ドキュメンタリー映画『さよならテレビ』場面写真

圡方さんは本作で、撮る側を務めつつも、初めて撮られる側にも回った。「取材されるのって、こんなに嫌で傷つくんだなと思いました」と気づきを語る。

圡方:同僚から「すごく傷ついた」と言われましたし、自分も被写体になったのでカメラが来るのがすごく嫌なんですよ。確実に失敗を狙っている。
グローバー:ミュージックビデオとかと違って、ドキュメンタリーですからね。
圡方:そうですね。カメラマンへの猜疑心みたいなものを、取材される側は感じてるんだなということがわかりました。テレビカメラの害性と言いますか、傷つけるということを現場の人間は知ったほうがいいと思いましたね。

ドキュメンタリー映画『さよならテレビ』場面写真

本作でも描かれているように、ドキュメンタリーは真実を映しているとは限らず、演出や制作者の意図が少なからず入っている。ドキュメンタリーに限らずテレビ全般に関して、制作者が作りたいものを作る重要性を圡方さんは語る。

圡方:自分たちが作りたいものや楽しいことそっちのけで「視聴率さえ取れればいい」となっているんですよね。そこがもう視聴者の人に飽きられている。「こっちのことは気にしなくていいから、おまえら何を作りたいの?」というのが本当は問われているんだと思います。でも、そこをやるには勇気がいるんだろうなと思いながら。
グローバー:視聴率が落ちたら、スポンサーもいなくなっちゃって、自分たちのお給料にも関わってくるわけですもんね。
圡方:「湯気の出てるラーメンを出せば視聴率が上がる」というデータがマーケティングとしてあるから、ニュース番組も今ではラーメンを出している。また報道番組はスクープ合戦で、他の局と横並びで競争している現状もあります。その視聴率主義を一度捨てないといけないんでしょうね。

ドキュメンタリー映画『さよならテレビ』場面写真

『さよならテレビ』は、東京・ポレポレ東中野、ユーロスペースにて公開中、ほか名古屋、大阪、京都など全国順次公開中。詳細は公式サイトにて。

場面写真:(C)東海テレビ放送

【番組情報】
番組名:『JAM THE WORLD』
放送日時:月・火・水・木曜 19時-21時
オフィシャルサイト: https://www.j-wave.co.jp/original/jamtheworld/

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