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田嶋陽子は“怒れるフェミニスト”ではない―テレビ出演の裏側にあった不条理なエピソード

田嶋陽子は“怒れるフェミニスト”ではない―テレビ出演の裏側にあった不条理なエピソード

「#MeToo」や「#KuToo」に代表されるように、さまざまなメディアや場面でフェミニズムが話題になることが増えた昨今、英文学者で女性学研究者の田嶋陽子の功績が再評価されている。田嶋は30年前からお茶の間にフェミニズムを浸透させてきた存在だ。2019年11月には、作家の山内マリコと柚木麻子が責任編集のもと、フェミニズムマガジン『エトセトラVOL.2』(エトセトラブックス)にて、特集「We LOVE 田嶋陽子!」も組まれた。 田嶋は、現代の日本のフェミニズムについてどう感じているのだろうか? J-WAVE『JAM THE WORLD』のワンコーナー「UP CLOSE」にて、月曜日のニューススーパーバイザーであるジャーナリストの津田大介が訊いた。オンエアは2月17日(月)。


■痛めつけられても、テレビを見る何百万人にフェミニズムを届けたい

田嶋は津田塾大学大学院博士課程を修了後、同大学や東京女子大学などで教え、英国留学後、法政大学に就職。評論家の樋口恵子による「花婿学校」で講師を務めていた1990年に『笑っていいとも!』のワンコーナー「モリタ花婿アカデミー」に出演するや否や、そのキャラクターがすぐさま話題を呼んだ。その後は、討論バラエティ番組『ビートたけしのTVタックル』で男性出演者と激しいバトルを繰り広げ、国民的な知名度を得るようになる。

津田:当時は、男女平等やジェンダーという言葉も社会に広がっていないような状況でしたよね。
田嶋:でも「フェミニズム」って小難しく聞こえるけど、人は生まれながらにしてフェミニスト。女性の場合は「女」に作られていっちゃうから、「一人前」にはなりにくい。
津田:社会がそうさせていくんでしょうね。田嶋さんの中には、「日本にフェミニズムを広めるんだ!」というある種の使命感のようなものはあったんですか?
田嶋:バラエティに出る前はNHKの英会話番組『英語会話II』に出ていたんです。それが私の専門。大学ではフェミニズムも教えてました。だから、「私のような大学の教師がテレビに出るとしたらそこを頑張らなきゃ」というのはありましたね。ものすごく痛めつけられて「いつ辞めようか」という感じでやっていたんですけど(笑)。でも大学の同僚のフェミニストからは「テレビは拡声器。私たちが本を書いて売れても5000部だけど、テレビは何百万人の人が観てるから」と言われました。そうしたら、目の前にいるヘンな男の人を相手にするより、その(テレビ観ている)向こう側にいる人に向かって少しでも伝えられたらいいなと思うようになりました。私にとってのテレビは、たったひとりの運動でした。


■何を言っても「男性が勝つ」ように編集された

田嶋は『ビートたけしのTVタックル』にて、男性出演者に歯に衣着せぬ物言いで激論を交わした。時には彼らから言い負かされ、怒りの感情を露わにする……そんなイメージを持っている人もいるかもしれない。そこには、テレビというメディアがいかに男性社会であるかを物語る裏話があった。

田嶋:その頃、私がいくら言っても、番組の偉い人の言葉で終わるようになっていたんです。いくら私が言い負かしても、その人が勝つように編集された。
津田:収録中に田嶋さんがいくら理論やエビデンスを示して、議論として勝ったとしても、編集でいくらでも変えられてしまう、と。その頃は、たくさん不条理な思いをされたんですね。
田嶋:でも電車のなかで泣きながら「言いたいことを言ってくれてありがとう」と言われたり、道を歩いている中学生の女の子が「先生、次は何をやるの? 面白いから頑張って!」と言ってくれたりしました。夏休みに家に帰る列車の中で、男の子たちがワイワイやっていたのに、私の顔を見ると、オイオイと相手を促して足を閉じた。『笑っていいとも!』で、私が「なんで電車の中で男はあんなに足をかっぴらいて座ってんのよ!」って言ったのを聴いていたんでしょうね(笑)。そんな風に、若い人たちは素直に反応してくれた。
津田:嫌な思いと同時に、応援してくれる声もあったんですね。それが、テレビに出続けられた原動力にもなったんですか?
田嶋:それしかないですよね。


■日本はこのままでは埋没する…制度や法律を国が変えるべき

30年近く、テレビでフェミニズムを訴えてきた田嶋。現代の日本における男女平等を巡る状況については、仕事の場に女性たちの顔が見えるようになったし、例えば文学賞など個人で頑張れる分野では女性の数が増えて、少しずつ変わっている部分も感じると言うが、まだまだ「努力が足りない」と批判する。

田嶋:女性大臣の数も、今は19人のうち3人。しかも首相の息がかかった人ばかりだから、女性であっても女性の代弁者ではない。男社会に過剰適応した女性であって、女性の味方ではない人たち。30%とかに増えないと、せっかく女性がいても女性のための法案は通らない。それでは意味がないですよね。
津田:それがジェンダーギャップ指数ですよね。
田嶋:フィンランドやノルウェーは大臣たちの半分が女性の国ですが、初めはクオータ制(議員の一定数をあらかじめ女性と定める制度)を導入しています。日本だって安倍さんが2003年頃に「2020年にどこの分野でも30%は女性を入れる」と言っていました。全然近づいてないし、何も努力していないですよね。他の国はみんな努力しているのに日本だけがしていない。

田嶋が強くそう批判するのは、女性が仕事で活躍する社会にならないと国の経済力や少子化にも大きく影響を及ぼすからだ。

田嶋:日本は「女の問題」として片付けているんですが、世界経済フォーラムは「日本は経済力が落ちていく」と言っている。なぜなら国民の半分を占める女性にきちんとした待遇で働いてもらわないと、それだけGDPも上がらないからです。日本の専業主婦制度では、彼女たちのタダ働きは100兆円近いんですよ。それが収入になったら日本の経済はすごく上がる。
津田:配偶者控除もなくしたほうがいいという話が出ているのに、ずっと残っていますもんね。
田嶋:あれは戦後の日本が経済的に復興するためには、「子どもを産む女は会社の足手まとい、だから女には家で子育てと食事の世話をさせて、その分、男を200%働かせればいいという考え方の遺物です。女を家に閉じ込めておいたら女は絶対に自立できないし、男が200%働いたって日本は夫婦別産制だから、女の人は死ぬまで自立できない。専業主婦になると住民税も健康保険や年金の掛け金も払わなくていいけれど、その分、手も足ももがれちゃうんです。
津田:家庭に縛り付けられ、旦那のDV等で離婚してシングルマザーになったら、今度はシングルマザー支援がまったく社会的に整っていないので厳しい状況に置かれてしまう。
田嶋:そうそう。この秋も法律が少し変わったりしたけど、まだまだ不十分。やはり「結婚しなくても子ども産んでOK」にしないと。イギリスなんかは30年前にそうなってるように、自らシングルマザーを選ぶ人たちが増えてきたら、きちんとしたケアさえあれば少子化もなくなるんですよ。
津田:フランスの「PACS」(結婚していないパートナーとも同程度の権利を得られる独自制度)もまさにそうですよね。少子化改善の決め手にも経済的にも後押しになった。解決策は欧米各国を見ていればわかるのに、日本は選択的夫婦別姓すら無理だっていう状況です。
田嶋:国連から何十年も前から勧告を受けているのにまだやらない。「家庭が壊れる」とかバカ言って。もうとっくに壊れてんのに。

田嶋は「構造としての差別の中で個人だけが声を上げ続けることは限界がある」と指摘する。抜本的に政府が男性中心の制度や法律、いろいろなシステムを変えて女性が働きやすい社会にしなければ、「本当に日本は埋没すると思います」と主張した。


■夫にも政府にも縛られる女性のしんどさ

田嶋は男社会が利用している「男らしさ」や「女らしさ」への呪いが、男女問わず人々を苦しめていると話す。

田嶋:私たちは生後6ヶ月くらいからバイアスを身につけていくんだそうです。台所でトントン包丁使っているのが女の人で、カバンを持って出かけるのが男の人だ、って。そうやって女は「女らしく」、男は「男らしく」作られていく。女らしくなった女性は男の2番手にしかならない。そこから1番手になるというのは、構造の話だからそう簡単に変わらないんですよ。
津田:一方で、「働きたくない」と考える専業主婦志向の女性や性的役割分業で言うところの「女性は女性らしく」というものを好む女性も多数います。
田嶋:女は「女らしく」とか「まっとうな女の生き方は専業主婦」だという社会通念で育てられてきたから、それが快適な人はそれでOKですよ。ただ、制度そのものは、違う生き方をする女性にも公平でなくちゃ。結局、配偶者控除も男の人にとって都合がいい。専業主婦の人たちも“103万円の壁”(所得税が発生しない給与収入103万円の範囲内で働くこと)があるから、確かに住民税も健康保険や年金の掛け金も払わなくていいけれども、その人たちの肩代わりをしているのは夫ではなくて、働いている男女。せっかく働き方改革をしようという時代なんだから、男は100%だけ働けばいい、その分女も100%働いて自分のお金を手にするといい。お金は自由をくれます。自立できます。


■「男らしさ」や「女らしさ」がこの世の中に弊害をもたらしている

最後に田嶋は、これからの世代に向けたメッセージを送った。

田嶋:女の人も2つの自分の間で苦しんでます。社会から期待される「女らしい」自分と、本来女の人が持っているフェミニスト的な「自立したい」、「自分の世界を持ちたい」という自分と。フェミニストは方向性がはっきりしているから元気だけど、そうでない女性はその2つのはざまで悩んでるわけです。彼女たちをそうさせているのは、政治であり制度です。制度自体が古くて男中心で不平等で女性差別的。もう女の人は羽根を取られた鳥みたいに、飛びたくても飛べない。日本は男だけの片肺飛行。このままだと、沈没します。
津田:これからの後に続く世代、まずは男性にメッセージはありますか?
田嶋:無理して男らしくなんかならなくていい。「男らしさ」に失敗した男の人って暴力をふるうことがあるじゃないですか。家庭内暴力も痴漢もそう。「男らしさ」や「女らしさ」がこの世の中に弊害をもたらしている。「女らしくなれ」と言われた女性は、人を支え、男を脇から支える人にはなれるけど自立はできない。そういう風に、男らしさ、女らしさで男女間に格差を作らない。 男らしさ、女らしさを人に期待しない社会を作ってかないといけないと思います。
津田:女性たちには?
田嶋:「女らしさ」を生きるんじゃなく「自分になる」ということですよね。「自分になる=フェミニストになる」ということですよ。

J-WAVE『JAM THE WORLD』のコーナー「UP CLOSE」では、社会の問題に切り込む。放送時間は月曜~木曜の20時20分頃から。お聴き逃しなく。

【番組情報】
番組名:『JAM THE WORLD』
放送日時:月・火・水・木曜 19時-21時
オフィシャルサイト: https://www.j-wave.co.jp/original/jamtheworld/

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