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人間の欲望とは何なのか?  今、情報はあふれているけど…幻想を見ているのかも【大倉眞一郎×原カントくん】

大倉眞一郎(左)、原カントくん(右)

人間の欲望とは何なのか? 今、情報はあふれているけど…幻想を見ているのかも【大倉眞一郎×原カントくん】

J-WAVEで放送中の番組『BKBK(ブクブク)』(ナビゲーター:大倉眞一郎、原カントくん)。本や映画に詳しい大倉眞一郎と、複数のメディアに携わる編集者・プロデューサーの原カントくんが、大人が興味を惹かれるモノについて縦横無尽に語り合う。

最終回となった3月31日(火)のオンエアでは、「人間の欲望」をテーマにディープな会話を展開した。


■自分の欲望を、先回りして提示してくれる時代が来る

大倉は広告会社の出身。“欲望作りを手伝う場所”とも言える職業だ。現在も広告に近いところで仕事をしているが、あるとき「俺って何にもほしくない」と気づいたという。

大倉:僕はまるで服装に興味がない。基本的にモノを身に付けたくないんです。 :でも、何か欲望はありますよね。
大倉:そうなのよ。どんな欲望があるかというと、おいしいものを食べたい欲望はあります。あとは、知りたい、見たい、聴きたいとか、そういうことには異様な欲があるんです。だから、長期間空くとすぐカメラを持って旅に出ちゃう。僕はかたちになるものにお金を使うことが非常に苦手なんです。一方でかたちがないものにお金を使うと、さばさばしちゃうんですよ。
:かたちがないもののほうがスッキリすると。それはわかります。僕もモノを持っているだけでストレスがたまってしまうことがあって、飲み代とか映画代とか本とか、かたちないものを買ったほうがいいなと。知識は荷物になりませんから。今や何でもデータで管理できるから、たくさんモノを持って褒め合う時代じゃないですからね。

今はほとんどの情報がポケットの中のスマートフォンに集約され、簡単に欲望を叶えてくれる。「これに興味をもったあなたには、こちらもおすすめ」と、自分が欲望を抱く前に教えてくれるほど。5Gの普及で、その傾向はさらに強くなるだろう。

大倉:バーチャルだと、たとえば見たい、聴きたい、知りたいって基本的にそこで終わっちゃうじゃない。5G(第5世代移動通信システム)が普及すると、全くストレスなく次から次へと情報があふれ出てくる。
:自分の欲望すら先回りして提示してくれる時代が来てしまうってことですよね。


■自分の欲望なんてたかが知れている

原は、心理学者アブラハム・マズローが人間の欲求を5段階に理論化した「マズローの欲求5段階説」を例に、こう切り出す。

:この説の最初の欲求は「眠りたい」とか「食べたい」などの「生理的欲求」、その次の欲求は「認められたい」「褒められたい」という「承認欲求」と続きますよね。その最後は、「人にいいことをしたい」という欲求なのかなと思うんです。マイクロソフトの共同創業者のビル・ゲイツや、ZOZO前社長の前澤友作さんもそうですけど、財を成した人ほど寄付をしたがるじゃないですか。彼らは世のためというよりは、自分の欲望を満たすために他人に財産をシェアしているんじゃないかなと思ったりするんです。
大倉:それは正しいかもしれない。
:逆を言えば、自分が満たされていないことには、人は優しくできないのではないかと。
大倉:結局、自分の欲望なんてたかが知れているじゃないですか。人は裸で生まれて、最後は日本では焼かれてしまう。だから、いくら何かを持っていたって、所詮は現(うつつ)ですよ、現の世界の出来事なんです。(そういった世界を)歴史学のユヴァル・ノア・ハラリは「虚構」と、心理学者の岸田 秀は「共同幻想」と言ったように、仏教も「全ては幻想である」ということに近いことを言っているんですよね。

大倉は高校3年の頃に逃げたくなり、「俺は坊さんか山で修行して霞を食って生きることが理想かな」と思ったことがあると振り返る。

大倉:そのときに考えた「悟りを開きたい」とか「欲望を捨てたい」とかも欲望だよなって気付いたんですよ。
:欲望を捨てたいっていう欲望……いったい、何なんですかね。


■今、無駄なことが軽んじられているけれど…

再び、情報があふれる時代の欲望の話題に。どんな欲求も自宅で完結できるようになったことで、リアルな体験がないがしろにされるようになったのではないかと、大倉は考えている。

大倉:たとえば山登りも「そんなの実際に登らなくていいじゃん」とか、みんな勘違いし始めたわけですよ。山に登ったら山に登っただけのものがあるし、実際にデートすればうまくいかないくて「あのときに、ああ言っていればもしかしたら違う反応だったのかも」と悩むこともあるじゃないですか。あの悩むことが面白さであって、それが次の欲望を生んでくれたかもしれない。それなのに、異性との接触さえ面倒くさがって、「なんで私のことを考えてくれないの?」と言われた瞬間に、心が折れてしまう若者が最近いるらしいですからね。
:今は無駄なことが軽んじられているんですよね。でも、無駄の中にアートが生まれてくるわけで。でも、それがなかったらカルチャーもどんどんなくなってくると思います。
大倉:カルチャーってすでになくなりつつあるような気がする。

スマホを開けば、カルチャーらしきものは出てくる。しかし、それはカルチャーなのか……という疑問を、大倉は感じることがあるという。

大倉:今は情報らしきものが漂っていて、もしかしたら実態なんて何もなくて、僕らは幻想を見ているだけなのかもしれない。
:そうですよね。将来的には自分の快感を出す物質みたいなものに支配され続けて、すごく合理的に気持ちよくなれる世界になるかもしれない。でも、それはすごく気持ち悪いですよね。
大倉:人間が動かなくなっちゃうよね。
:だから、無駄を大事にしないといけないですよね。


■人とのつながりが自分の本質をつくる

バーチャルな世界で、情報を受け取るだけで“完結”することもできる時代だが、人とのつながりは自分の本質をつくるために大切なことだ。

大倉:人間はたくさんの人間とのつながりの中で「自分をここに位置付けよう」というかたちで浮いている存在だから、そういう人との触れ合いをうざったいと思ってしまったら自分の本質なんてなくなってしまう。
:他者との関係性の中に自分があるんだと。スマホを持って部屋にいたら、自分が見たい情報だけ入ってきて人と付き合うこともない。でも、本当は大倉さんが言う、他者との関係の摩擦などではじめて自分が見えてくるわけですね。スマホに生きていてもそれは出てこないよ、と。
大倉:出てこないでしょ、そんなものは。
:なかなかいい話するじゃないですか。
大倉:最終回に取っておいたから(笑)。


■最後はブクブクと泡のように…

今回で最終回となった『BKBK』。大倉と原は番組をこう振り返った。

:この番組は映画の話とか演劇の話、ときには『最前線!密着警察24時』みたいなテレビ番組を紹介したり、わけのわからない番組だったと思いますよね。

【関連記事】『最前線!密着警察24時』の魅力…警察もテレビカメラを意識している!?

大倉:僕はテーマを決めて話すのが得意じゃないんです。どこに広がってもいい話だったらしたいなといつも思っているから。
:ある意味、ブクブクと泡のように消えてもいいという前提で始まった番組ですからね。でも、楽しかったですね。大倉さんはかたちが残らないものがカッコいいと話したので、この番組も泡のように消えていきましょうかね。

最後に大倉は、「1年間、みなさんどうもありがとうございました。またどこかで、お会いすることがあるかと思います。探してみてください」とコメントし、番組は幕を閉じた。

【この記事の放送回をradikoで聴く】(2020年4月7日28時59分まで)
PC・スマホアプリ「radiko.jpプレミアム」(有料)なら、日本全国どこにいてもJ-WAVEが楽しめます。番組放送後1週間は「radiko.jpタイムフリー」機能で聴き直せます。

【番組情報】
番組名:『BKBK』
放送日時:毎週火曜 26時30分-27時
オフィシャルサイト:https://www.j-wave.co.jp/original/bkbk/

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