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松居大悟が振り返る、ドラマ『バイプレイヤーズ』の思い出―台本通りに進めない役者陣に学んだこと

松居大悟が振り返る、ドラマ『バイプレイヤーズ』の思い出―台本通りに進めない役者陣に学んだこと

J-WAVEで放送中の番組『SAPPORO BEER OTOAJITO』(ナビゲーター:クリス・ペプラー)。ビールを飲みながら、クリスとゲストが音楽談義を繰り広げる番組だ。

5月15日(金)のオンエアでは、劇団ゴジゲンの主宰で映画監督の松居大悟が出演。松居はミュージックビデオも数多く手がけるほか、俳優としても活動し、J-WAVEでは『JUMP OVER』のナビゲーターを務め、5月20日(水)には初の小説『またね家族』を発売する。

さまざまな分野で才能を発揮する松居のバックボーンや、今まで聴いてきた音楽を掘り下げながら、クリープハイプ・尾崎世界観との出会い、ドラマ『バイプレイヤーズ』シリーズの思い出話を聞いた。


■「こんなに素晴らしい街なのに、なんで?」生まれ育った福岡での疑問

松居は福岡県北九州市出身。福岡市にある「福岡ドーム」(現在は「福岡PayPayドーム」)の近くで育った。ドームができあがっていく様子を見ながら育ち、福岡が都市になっていくことを肌で感じていたという。

クリス:現在では劇団の主宰をしていますし、監督もされています。福岡で育った生い立ちが今の仕事のプラスになったと思いますか?
松居:福岡という街は、日本で一番進んでいるというプライドがあったんです。あまり他の街に行ったことはなかったんですが、そう思っていました。でも、『週刊少年ジャンプ』(集英社)は本来、月曜日発売なんですけれど、福岡だと火曜日に発売されます。ほかにも、観たい番組が深夜2時に放送されたり、スイーツ特集で自由が丘が特集されたりしていて、「行ったことないなあ」とか。なにか(福岡が)はずされているような感じがしていました。「こんなに素晴らしい街なのに、なんで?」という、東京の人たちへのカウンターみたいな気持ちがありました。なので、大学は絶対に東京へ行って一旗揚げてやろう、みたいな気持ちでいました。


■GLAY派とL'Arc-en-Ciel派の違い

松居は、小さい頃にGLAYの音楽をよく聴いていたそうだ。学校ではGLAY派とL'Arc-en-Ciel派(ラルク派)が分かれており、「どっち派か?」という話題で盛り上がっていたのだとか。

クリス:GLAY派とラルク派の違いは、統計的に見てなんだと思いますか?
松居:周りへの意識が強いか、自分への意識が強いか。ラルクは美意識もはっきりしているし「どう魅せるか」という点が優れていると思いました。コミュニケーション上手な人が多いような気がしていて。GLAYの曲は素敵なんだけれども、内に向かっていく曲が多くて、僕はそれに励まされていたので、GLAY派はわりと内に向かっていくような感じなのかな。
クリス:わかりやすいですね。


■初CD購入体験は「お金を払った」ことで応援する気持ちが届いたと感じられた

松居が初めて買ったCDは、Something ELse『ラストチャンス』の8センチCDだったという。テレビ番組『雷波少年』(日本テレビ系)の企画から生まれた曲だ。松居はこの曲に並々ならぬ想いがあるそうで……。

松居:「家に引きこもって、いい曲ができるまで外に出られない」みたいな番組企画で、それをずっと応援していました。最後に「いい曲ができました」「これを最後のチャンスにします」と『ラストチャンス』を作って、彼らが「買ってください」と言っていました。僕は当時、中学生だったんですけど、少ないお小遣いを引っ張り出して、CDショップに走って行って買いました。その後、兄貴から借りたデッキに入れて再生して、音楽が流れたときには、すごくグッときました。
クリス:CDを兄貴のプレイヤーに入れたとき、完結したような感じだったんですかね。
松居:そうですね。「お金を払って買った」ということで、自分の応援している気持ちを届けられた気がしたんです。


■「モテないんだ、ちくしょう」と歌ってもかっこいい…自分が許された気がした音楽

松居が高校生の頃に、パンクロックブームとメロコアブームが到来。GOING STEADY、ガガガSP、Hi-STANDARD、太陽族などの音楽を聴いていた。

松居:そうした音楽を聴きながら「こういうことを歌っていいんだな」って思ったんです。「モテないんだ、ちくしょう」ということを叫ぶと、こんなにかっこいいんだと。自分の存在が許されたような気がしました。中高は男子校だったし、太っていて、あまりイケてなかったんです。
クリス:昔は太ってたんですか?
松居:ものすごく太ってたんですよ。
クリス:うそ!? 写真は持ってないんですか? 見たい。
松居:いやいや(笑)。今は持ってないんですけれど、探せばあるんじゃないですかね。
クリス:今はすごく痩せていますよね。
松居:今は普通の体になりました。
クリス:マックスはどのくらいあったんですか?
松居:「クラスで一番の太っちょ」みたいな感じでした。背も一番小さかったので、すごく馬鹿にされていました。中1のときに両親が離婚して、部屋にこもって漫画を描いたりするようになって、鬱屈した感じだったと思います。
クリス:そうか。こもって絵を描いて食べて、気づいたら……みたいな。
松居:そのときに、尾崎 豊も部屋でよく聴いていました。窓ガラスを割ったことはないけれど、尾崎が代わりに窓を割ってくれて。
クリス:なるほどね。クリエイティブな人って、大体こもっている人が多いですね。人生で1、2年ぐらい全然外に出ないで家にいたという人がすごく多いですよ。
松居:そうですよね。僕も中学のあの期間があったから、今こうして映画を作ったり演劇を作ったりできている気がするんですよね。


■クリープハイプ・尾崎世界観との出会い

松居は、大学で演劇サークルに入り、そこで周囲が「意識的に音楽を聴いている」と感じたと話す。それがきっかけで多くの音楽を知り、クリープハイプの尾崎世界観との出会いにつながった。松居が初めてミュージックビデオを手がけたのは、クリープハイプ『オレンジ』だ。



松居:当時、くるりとかゆらゆら帝国を聴いたことがなくて、「聴いてないの?」って言われて。「自分の感性と合うバンドを見つけなきゃ」と思って、TSUTAYAに行ってCDを片っ端から、気になるものを借りていきました。その当時に「素敵だな」と思ったバンドが5つあって、それをずっと繰り返し聴いてました。それがクリープハイプ、andymori、毛皮のマリーズ、野狐禅なんです。今もみなさん活躍しているから、うれしいですね。

「クリープハイプは、曲のタイトルが不思議で面白いなと思ってCDを借りて聴いていました」と松居は言う。

松居:半径5センチくらいのことを歌にしていて、GOING STEADYとかとは違う、もっと歌にならないことを歌にしようとしていて、すごく素敵だなと思いました。こういうアプローチで僕も映画や演劇を作れたらいいなと思って、劇団で開場中とかにかけていたんです。そうしたら尾崎くんが観にきてくれて、そこから交流が始まって、クリープハイプのメジャーデビューのときにミュージックビデオをやらせてもらって。そこからいろいろと縁が始まったんです。なので、音楽によっていろいろなことが支えられてきたなと思いますね。

「人の縁で、ずっとお仕事をさせてもらっている感じがある」と松居。ミュージックビデオは、自分の好きな音楽でないと手がけられないそうだ。

クリス:「(この仕事をすべきなのは)自分じゃないな」と思うと、お断りしちゃうタイプ?
松居:自分にしかできないなとか、自分がやるべきだと思うものをやるようにしていて。「自分でいいのかな?」と思う場合に、なぜそう思うか突き詰めて考えると、自分よりもこの曲やアーティストを愛してくれる人がいるはずだと。そう思うと、できないんですよね。僕がその音楽をすごくいいと思って作って、それを見た他のアーティストが見てくれて、「こういう映像がいいと思ったから」と話をくれる、という感じですね。

長年、音楽業界を見てきたクリスは「わかるなあ」と共感。昔のミュージックビデオは、「この映像を作った人は、本当にこのアーティストを理解しているのか」と感じることもあったという。しかし今は、パッと見では音楽と関係がないような映像に見えても、音楽の根っこを理解していることが伝わってくると話した。


■価値観がひっくり返った、ドラマ『バイプレイヤーズ』の撮影

主宰する劇団ゴジゲンは、大学の演劇サークルの延長で作ったという。「これで一生、飯を食っていくぜ」と覚悟を決めてのことではなかったが、松居のキャリアは15年ほどとなる。

クリス:なんとなくは、「こっちの方向に進むだろう」とは昔から思ってました?
松居:いやいや、思ってないですね。未だに思ってないです。僕、基本的に自信がなくて、自分のやっていることに対して不安で。だからこそ、もっとおもしろくするためにどうしよう、と考えたりするんですけど……。

そんな松居が、「この仕事を辞められない」と感じたのは、ドラマ『バイプレイヤーズ』シリーズでのことだった。メイン監督と脚本を務めた同作には、故・大杉漣さんが出演。亡くなった翌日も本来は撮影予定だった。

松居:本人役を最期にやる、という……。ラストシーンを先に撮影していたので、中盤の脚本を変えて、繋げることができたんです。もしかしたら、漣さんが仕掛けてたんじゃないか、なんて思って……。
クリス:それを考えると、役者冥利に尽きるみたいなところがありますね。
松居:それがあって、「この仕事を辞められないな」と勝手に背負いましたね。
クリス:『バイプレイヤーズ』はすごい企画ですよね。
松居:ほんとに。深夜0時から、ひとりでも主演を張れる役者が6人も揃って。すごかった……僕も振り回されながら(笑)。
クリス:どんなふうに?
松居:台本通りに進まないんですよ。「こう撮ろう」と決めていてもその通りにならないんですけど、僕の描いていたビジョンより圧倒的におもしろいんです。準備したイメージをどんどん捨てて、いかにイキイキ撮るかという作業でした。それまではいかに準備をしておもしろいものを作るかを大事にしていたんですけど、捨てていく作業の重要さに気づいて、価値観がひっくり返りましたね。


■家族を描く小説『またね家族』への思い

松居は初の小説『またね家族』を5月20日(水)に発売。家族を描いた作品だ。

松居:去年、父親の七回忌だったんですけど。父親との思い出などは、避けているところがあって。父親が僕の仕事をあまりよく思ってくれていなかったので、考えないようにしていて。もう会えなくなってしまって、「あの時間ってなんだったんだろうな」と思い返しながら、父親と向き合ってみたんです。

多くの人と作り上げる演劇などでは、家族というテーマは避けていた。小説であれば自分と編集者という少人数しか関わらないため、執筆に至ったそうだ。

松居:それをやったら、演劇や映画でも家族を描いていいと自分の中でOKが出るかと思って、向き合ってみました。
クリス:どうですか。自分の中で、何か変わったというか、終えた感じはしますか。
松居:いやあ、ぜんぜんないですね。これだけ父親のことを考えたという、客観的な既成事実が自分の中で大きいとは思っているんですけど。

読んだ人が「自分の家族について考え直したり、連絡したくなったり話したくなったりしてほしいなと思います」と語った。



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『SAPPORO BEER OTOAJITO』では、毎週さまざまなゲストを迎えてお酒を飲みながら音楽トークを繰り広げる。5月22日(金)の放送でも、引き続き松居が登場する。放送は毎週金曜23時から。

【この記事の放送回をradikoで聴く】(2020年5月22日28時59分まで)
PC・スマホアプリ「radiko.jpプレミアム」(有料)なら、日本全国どこにいてもJ-WAVEが楽しめます。番組放送後1週間は「radiko.jpタイムフリー」機能で聴き直せます。

【番組情報】
番組名:『SAPPORO BEER OTOAJITO』
放送日時:毎週金曜 23時-23時30分
オフィシャルサイト: https://www.j-wave.co.jp/original/otoajito/

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