のん、『この世界の片隅に』片渕監督と対談。映画界にとって「ミニシアター」はどんな存在?

女優・創作あーちすと のんが、映画『この世界の片隅に』の片渕須直監督と「映画コンテンツの『未来』」について語りあった。

のんと片渕がトークを展開したのは、5月17日(日)放送のJ-WAVEのPodcast連動プログラム『INNOVATION WORLD ERA』のワンコーナー「FROM THE NEXT ERA」。のんは同番組の第三週目のナビゲーターで、片渕をゲストに招き、リモート出演でトークを繰り広げた。


■久しぶりの再会

のんは片渕監督の映画『この世界の片隅に』で、主人公のすずを演じた。ふたりは今回、久しぶりにリモートで再会を果たした。

片渕:モニター越しにのんちゃんの顔を観ているんですけれど、アフレコのときもずっとブースと調整室でモニターを使ってやりとりをしていたので、そのときとあまり変わらない感じがします。
のん:違和感がないですね。
片渕:そうなんですよね。
のん:ちなみに監督は今どこにいらっしゃるんですか?
片渕:福井県のほうなんです。わりと海が近いところで、浜辺で犬の散歩ができます。誰もいない浜辺なので、3密になることが全然ないですね。
のん:おお、安全な海だ。いや、本当に大変な状況ですね。
片渕:そうですね。
のん:どんな時間を過ごすことが多いですか?
片渕:本当は次に作る映画の構想を固めるために、缶詰めになろうと思ってここに来たんですけれど、犬を連れてきちゃったんですね。犬を2018年の4月から飼い始めたんですが、今年の1月くらいまでずっと僕が『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』の映画を作るのに忙しくて、あまり運動をさせてあげられなかった。だから、こっちに来たら運動し放題だなと思って連れてきたんです。1日に4~5時間散歩をしないといけない感じがして。
のん:すごい! めちゃめちゃ時間をとられてますね。
片渕:そうなんです。もう家の前まで来ているのに「もう一か所行きたい」っていう。
のん:スタミナが(笑)。
片渕:「まだ帰りたくない」とか、大体なにを言っているのか犬の言葉がわかるようになってきて。
のん:すごい。
片渕:そういうことやりながら、いろいろと考え事をしたり。最初はブルーレイディスクをいっぱい持ってきて映画を観まくっていたんですけれど、映画を1日3本観ていると2か月くらいで限界がきますね(笑)。
のん:私もテレビで配信のものを観たりとかしているんですけれど、段々とそうなってきますよね。でもそんななかでも、外出自粛が続いていると、映像作品を観たりとかになっちゃいますよね。
片渕:でもやっぱり、こういうときだから集中して映画を観るとか、そういうのがいいかなと思いました。


■片瀬監督が年配の観客からかけられた言葉

『INNOVATION WORLD ERA』ではイノベーションをテーマに掲げており、この日も片渕監督からイノベーションの種を探っていくことに。のんは「日本のアニメって外国と比べると、特異なパワフルさがあると思うのですが、なにが根底にあると思いますか?」と質問を投げかけた。

片渕:歳を重ねるのと同じように、アニメーションの対象年齢が上がってきていています。子ども向けのものもあれば、大人向けのものもある。「自分たちに向って語ってくれているもの」が見つからないなと思ったときに、日本のアニメーションがたまたまそういう方向に進化したんです。そのとき「新しくできてきたんだな」と思ったのを覚えています。それはいろいろな国の人たち、若い人たちにとっても、自分たちの年代の人に向って語り掛けてくれているメディアみたいなものがあるんだなというのが分かった。だからこれは、自分たちの文化なんだ、みたいな。
のん:なるほど。
片渕:『この世界の片隅に』を上映したときに、年配の方がいっぱい映画館に来てくださっていましたよね。
のん:そうですよね。
片渕:すずさんと同じ歳の方もいらっしゃって。
のん:90いくつとか、すごい……。
片渕:それで「自分たちの生きてきた時代、その時代のなかにいた自分たちの存在証明のような映画でした」って言ってくださって、90いくつの方がそういった言葉遣いで。
のん:鳥肌が立つくらい、うれしいですね。

6月に海外の映画祭で『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』の上映が予定されていたが、新型コロナウイルスの影響で中止に。片淵監督は、「付き添って僕もいけるはずだった……」と悔しさをにじませる。これに対しのんは「またいつか、そういう機会が作れたらいいですね」と希望をのぞかせた。


■「ひとつの芸能は50年続くと、伝統芸能になる」

日本のアニメの今後について、ひとつのジャンルとしてどのような戦略が必要になってくるのだろうか。片淵監督は、大御所アニメーターの言葉を引用して、自身の考えを述べた。

片渕:自分がアニメーションを始めるきっかけになったのが、大塚康生さんという超ベテランのアニメーターなんです。それこそ僕が2歳のときに観ていた漫画映画の画を描いていた人ですね。来年90歳ぐらいになるんですよね。すごく長生きしてらして。
のん:よかった。
片渕:10年ぐらい前かな。「ひとつの芸能は50年続くと、伝統芸能になっちゃう」と言っていて、それは大塚さんの持論だったんですよ。いろいろな新しいものをやろうと思って始めても、50年経ってきたら“型”のほうが大事になっている。僕らは大塚さんと比べれば若者なので、若い者は自分のアニメーションをもう一回考え直さないといけないんだな、というのをせまられた気がしました。今あるものの上にあぐらをかくのではなく、「こんなに面白いものもあるんだ」と、新しくまた発見をし直していかないといけない。そう言われたような気がしたんです。
のん:型をやっていくんじゃなくて、その型を踏まえながらも新しい表現を模索していくという。
片渕:型にはまっているものもすごく好きな人もいるじゃないですか。それはそれで大事だと思うんですね。
のん:私もわかりやすい王道、大好きです。

片渕は漫画を例に出して、50巻~100巻と単行本が続く王道もいいが、3巻ほどで完結する今までになかったような漫画も大事、だと話す。続けて「その両方がうまく道を見つけていけばいいんじゃないかな」と、提案した。


■映画は出会いの場に ヨコハマ映画祭での思い出

現在は映画業界も新型コロナウイルスによるさまざまな影響を受けている。のんも次々と撮影が延期・中止になっており、「どうなるんだろうな?」という今の心境を吐露。片瀬監督は、臨時休業中の小規模映画館(ミニシアター)を支援しようと広島県出身の諏訪敦彦監督や是枝裕和監督らの呼び掛けで発足した「#SaveTheCinema『ミニシアターを救え!』プロジェクト」に賛同の意を示している。映画界にとって、ミニシアターという文化はどのような存在なのだろうか。のんが問いかけた。

片渕:母親の実家が映画館なんです。昭和20年代、30年代ってすごく映画が発展して、お客さんがいつも満員になって……みたいなことがあったわけです。僕が覚えていたときでも、ほとんど映画館は立ち見でした。
のん:そうなんですね!
片渕:立ち見の上に肩車をしているみたいな、そんな風だったような記憶があります。

人々の生活の一部となった映画だが、テレビが登場し、映画の吹き替え版を放送するなど、映画館の人気は少しずつ緩やかなものになっていった。しかし、片淵監督は最近になって、ミニシアターやシネコンで舞台挨拶をする際に、ある変化を感じたという。

片渕:舞台挨拶とかサイン会みたいな形でお客さんとの交流をやらせてもらっているんです。ここへきて映画館が、作り手とお客さんが出会う場所になったり、あるいはお客さん同士がそこに集まって、好きな映画で盛り上がって応援上映をするといった、みんなが集まる場所になっているんですね。
のん:ひとつのイベントみたいな。
片渕:そういう意味で言うと、音楽のライブですよね。DVDやブルーレイ、テレビもあって、さらに今は配信も出てきて、家で自由に映画が観られるようになった。それとは別にもうひとつなにか、わざわざ出かけていくためにはそれだけの「出会い」みたいなものがちゃんとあるよという、映画館という場所が新しいポジションを主張し始めた時期という気がするんです。でも、コロナは「集まってくれるな」ということなので、そこがすごくつらいですよね。
のん:そうか……。
片渕:でも、そういうことができるように映画館が進化しているちょうど途中のような気がします。のんちゃんは「ヨコハマ映画祭」に『この世界の片隅に』で参加しました。映画祭に来たゲストの監督やスタッフ、キャストの人に、お客さんが花束を渡す場所があったじゃないですか。のんちゃんがすごくたくさん花束をもらっていて。
のん:そうですね、たくさんいただきました。
片渕:最初はのんちゃんが「私はあまりもらえないかもしれないから、サクラを呼びましょう」とか言ってたら、映画祭のスタッフの人が「いえいえ、のんさんが一番たくさんもらわれますよ」って言ってくださって。
のん:予言をいただきましたね。
片渕:そうそう、そうしたら本当に一番で。帰りは一緒のロケバスで帰ったんだけど、バスのなかが花で埋まって、運転手さんが花のなかにポツンといるみたいになって(笑)。ああいうのは楽しかったですよね。
のん:楽しかったです。


■のんと片渕監督が明かす、映画への想い

のんは「#SaveTheCinema『ミニシアターを救え!』プロジェクト」によるクラウドファインディング「未来へつなごう!!多様な映画文化を育んできた全国のミニシアターをみんなで応援ミニシアター・エイド(Mini-Theater AID)基金」に応援コメントを寄せている。
https://motion-gallery.net/projects/minitheateraid/updates/28962

そんなのんが、映画に対する自身の想いを語った。

のん:ミニシアターでしか観られないような映画もたくさんあるじゃないですか。そういうのも観られなくなっちゃうのは切ないなと思いました。そういう映画にたくさん出たいし、観たいし、観てほしい。アメリカではソーシャルディスタンスが保てるという理由からドライブインシアター人気だというのを聞きつけました。動画配信サービスもあるなかで、それでも集まって映画を観たいという文化。なんかクラクションを鳴らしたりして「フー!」というのを表現したりしているんですよね。
片渕:日本のどこかでドライブインシアターをやろうとしても、行く人で渋滞になっちゃったりするとね。
のん:そうか……。
片渕:いろいろな映画ができるのはいいなと思います。そういうことができるように、普通の日常が戻ってきたらそういうドライブインシアターみたいなものが日本でもできるようになるといいなと思います。

最後に片渕監督が、映画を愛する人々にメッセージをおくった。

片渕:映画って、ただ映画のなかの物語や、登場人物だけじゃなくて「あのとき、こんな風にしてこの映画を観たよな」という、映画の周りに思い出が付きまとってきて、それがすごく大事なような感じがします。だからこそ、いま家でいろいろな映画を観て、昔観たものとかを見直して「あのとき、こういうので、誰々と一緒にこの映画を観に行ったよな」とか、そういうのを思い出したりして。「こんなことをやっていたころもあったよな」と思い出すことが新しいこの先の、明日や明後日のことを思い描くきっかけになっていくといいなと思っています。映画そのものだけじゃなくて、その周りにある思い出や記憶を大事にして、未来につながっていくといいなと思っています。
のん:素敵、ありがとうございます。本当に感動しました。

デジタル音声コンテンツ配信サービス 「SPINEAR」の他、Apple PodcastsやSpotifyなど各ポッドキャストサービスでは、今回のオンエアのノーカット版を配信中。

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同番組は、各界のイノベーターが週替りでナビゲートする。第1週目はライゾマティクスの真鍋大度、第2週目はASIAN KUNG-FU GENERATION・後藤正文、第3週目は女優で創作あーちすとの「のん」、第4週目はクリエイティブディレクター・小橋賢児。

【この記事の放送回をradikoで聴く】(2020年5月24日28時59分まで)
PC・スマホアプリ「radiko.jpプレミアム」(有料)なら、日本全国どこにいてもJ-WAVEが楽しめます。番組放送後1週間は「radiko.jpタイムフリー」機能で聴き直せます。

【番組情報】
番組名:『INNOVATION WORLD ERA』
放送日時:日曜 23:00-23:54/SPINEAR、Spotify、YouTubeでも配信
オフィシャルサイト: https://www.spinear.com/shows/innovation-world-era/
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